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「蚕起きて桑を食う」の日・雑感 [日刊☆こよみのページ]

□「蚕起きて桑を食う」の日・雑感
 国土地理院のWebサイトに地図記号一覧という頁があります。 https://www.gsi.go.jp/KIDS/map-sign-tizukigou-h14kigou-itiran.htm見ていると、小学校(中学校も?)で習った、各種の懐かしい地図記号が書かれているのですが、その中に桑畑(くわばたけ)というものがあります。同様の農耕地を示す記号としては他に、田・畑・果樹園・茶畑・その他の樹木畑とあります。田と畑は、「田畑」といえば農耕地の一般名として通用するほどなので、よく分かりますが、個別に栽培されているものの名前が付いているものというと、この桑畑と茶畑。まあ、果樹園を仲間に入れてもよいかもしれませんが、これだってリンゴや梨、蜜柑に桃に桜んぼといろいろまとめて果樹園でしょうから、やはり厳密に一つの作物に限定しているものというと、桑と茶だけですね(「田」といえば稲だけじゃないか・・・といわれそうですが、まあ、これは別格扱いかな?)。

◇桑と蚕
 茶畑についていえば、新幹線で静岡あたりを通過すると、今でも茶畑の拡がる風景を目にしますから、茶畑専用の地図記号があることは納得がいきますが、はて、桑畑は? 一面の桑畑が拡がる風景なんて、私は見た記憶がありません。どこかにはあるのかな?度々書いていることですが、私が生まれ育ったところはすごく田舎でした。その御蔭で、子供時代の思い出話は同世代の人より、一世代か二世代上の方とのほうが通じあうくらいです。そんなわけで、ちょっと時代がずれているかもしれませんが、私の子供時代には身の回りに、まだいくらか桑畑が残っていました。私にとっては、桑といえば「桑の実」が美味しかった(個人的好みですが完熟した濃紫の実より、未熟な赤みがかった酸味の強い実が美味しかった)なと覚えていますが、桑畑が作られる目的はこの「実」ではなく、子供には無価値だった葉っぱの方でした。桑の葉が何に使われていたかといえば、それはもちろん、養蚕のため。蚕の餌としての桑の葉でした。私の隣の家(といっても500mくらい離れていましたけど)は専業の農家で、その家の蔵の二階には蚕棚がありました。今頃の時期には沢山の蚕が蚕棚の上で桑の葉を食べていました。むっとするような独特の臭いと、蚕が桑の葉を食む小さな、幾重にも重なった音を覚えています。蚕は、その繭から生糸を採るために育てられた虫。戦前の日本では農家の四割が養蚕に携わっていたそうですから、それを考えると蚕の餌とするために日本中に沢山の桑畑が作られていたのでしょうね。中国の故事熟語の中に「蒼海変じて桑田となる」という言葉があります。一面の海が桑畑に変わるほどの長い時の流れを表す言葉ですが、こんな言葉が出来るほど、古い時代から一面の桑畑という風景があったんですね(シルクロードが出来るわけだ)。この桑を食べる蚕は、大変に変わった生物です。戦前は日本の四割の農家が養蚕に携わっていたというほどですので、かなりありふれた生き物だったわけですが、こんなにありふれた生き物なのに、なぜか、野生化した蚕、家猫が野生化した(?)野良猫のような野良蚕がいないのです。蚕は桑の葉を食べます。しかしこれが「摘んでもらった桑の葉を蚕棚のような場所に置いてくれれば食べます」というとんでもない横着な食べ方。上げ膳据え膳でなければご飯食べませんという虫なのです。蚕を桑の木の葉っぱに載せてやっても、脚の力が弱くて風が吹いたら落ちちゃうし、桑の木の周りにいても自分で葉っぱを探すことが出来ずに餓死しちゃうし。笑い事ではないひ弱さです。こんなひ弱な生き物がどうやって今まで生き延びてきたのか? その問への答えは「人間がずっと上げ膳据え膳してきたから」なのです。蚕は「家蚕」ともいい、家畜化された昆虫。その上、既に述べたように野生化する能力すら完全に失ってしまった昆虫なのです。楽な生活(その後の釜茹の結末を考えなければ結構な生活)をしすぎると、こんなにひ弱になっちゃうとは。私も気をつけよう・・・。

◇これからどうなる桑畑と蚕
 専用の地図記号まで作られた桑畑ですが、現在はその数はだいぶ少なくなっているでしょうね。桑畑が減っているということは、それで養われている蚕さんも少なくなっているわけです。化学繊維全盛の世の中とは言え、天然素材の絹が姿を消すことは当分無いと思いますので、どこかではまだ蚕さん(あ、子供の頃は「お蚕様」と呼んでました)は、私の目の届かない場所で、据え膳された桑の葉を黙々と食べているのでしょうね。地図だって、よーく探せば桑畑の記号、見つけられるかな?本日は七十二候の一つ「蚕起きて桑を食う」の始まりの日ということで、桑と蚕で思い浮かんだ暦のこぼれ話でした。(「2021/05/21 号 (No.5347) 」の抜粋文)
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